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福島地方裁判所 平成3年(わ)144号 判決

本店所在地

福島県郡山市富久山町福原字一斗蒔田二八番地一

和興建設株式会社

(代表者代表取締役 及川俊彦)

本籍

福島県郡山市細沼町六一番地

住居

同県同市富田町字下双又一四番地の二四〇

会社役員

及川俊彦

昭和二二年五月九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤方生出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人和興建設株式会社を罰金二〇〇〇万円に、

被告人及川俊彦を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人及川俊彦に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人和興建設株式会社は、福島県郡山市富久山町福原字一斗蒔田二八番地一に本店を置き、土木工事、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人及川俊彦は、被告人和興建設株式会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人及川俊彦は、被告人和興建設株式会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、委託販売の売上除外及び外注工事費等の架空計上などの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人和興建設株式会社の実際所得金額が三七六二万六七八三円であったのにかかわらず、昭和六三年二月二七日、福島県郡山市堂前町二〇番一一号所在の所轄郡山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六五二万一〇二三円であり、これに対する法人税額が一九五万六三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一五三六万三四〇〇円と右申告税額との差額一三四〇万七一〇〇円を免れ

第二  昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人和興建設株式会社の実際所得金額が三九五八万三七八二円であったのにかかわらず、平成元年二月二八日、前記郡山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一二八〇万四五六八円であり、これに対する法人税額が四四一万九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一五六五万八一〇〇円と右申告税額との差額一一二四万七二〇〇円を免れ

第三  昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における被告人和興建設株式会社の実際の所得金額が一億二〇〇万三七六二円であったのにかかわらず、平成二年二月二六日、前記郡山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一二二二万四四六八円であり、これに対する法人税額が四一七万二八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六五〇八万六四〇〇円と右申告税額との差額六〇九一万三六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人和興建設株式会社代表者及び被告人及川俊彦の当公判廷における供述

一  被告人及川俊彦の検察官(三通)に対する各供述調書

一  菅野寿一及び山岸洋一の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官小山勝彦作成の領置てん末書

一  大蔵事務官齋藤忠雄作成の雑費調査書(販売費及び一般管理費)、受取利息調査書、支払利息割引料調査書、事業税認定損調査書及び脱税額計算書説明資料

一  登記官二木良夫作成の商業登記簿謄本

判示第一及び第三の各事実につき

一  大蔵事務官齋藤忠雄作成の外注工事費調査書(土地売上原価)、販売用不動産振替調査書(土地売上原価)、租税公課調査書(販売及び一般管理費)及び土地譲渡税額調査書

判示第一の事実につき

一  被告人和興建設株式会社代表者及川俊彦作成の修正申告書謄本(昭和六二年一月一日~同年一二月三一日事業年度)

一  大蔵事務官齋藤忠雄作成の外注工事費調査書(完成工事原価)

一  押収してある昭和62年1月1日~昭和62年12月31日事業年度分の法人税確定申告書及び添付書類(二五枚)一綴(平成四年押第三号の1)

判示第二及び第三の各事実につき

一  荒井伊佐男の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官齋藤忠雄作成の外注工事費調査書(造成工事原価)

判示第二の事実につき

一  被告人和興建設株式会社代表者及川俊彦作成の修正申告書謄本(昭和六三年一月一日~同年一二月三一日事業年度)

一  鈴木荘六の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官齋藤忠雄作成の期首販売不動産調査書(土地売上原価)及びみなす犯則損調査書

一  押収してある昭和63・1・1~63・12・31事業年度分の法人税確定申告書及び添付書類(二七枚)一綴(同号の2)

判示第三の事実

一  被告人和興建設株式会社代表者及川俊彦作成の修正申告書謄本(昭和六四年一月一日~平成元年一二月三一日事業年度)

一  阿部敏一の検察官に対する供述調書

一  寺田一実、田中徹、細窪一弘、奥正人の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官齋藤忠雄作成の土地売上高調査書、土地仕入調査書(土地売上原価)、設計測量費調査書(土地売上原価)、リース料調査書(土地売上原価)、手数料調査書(土地売上原価)、旅費交通費調査書(土地売上原価)、雑費調査書(土地売上原価)、交際費調査書(販売費及び一般管理費)、支払手数料調査書(販売費及び一般管理費)及び交際費損金不算入額調査書

一  加藤博作成の不動産の譲渡(受)内容等の照会に対する回答書

一  押収してある昭和64・1・1~1・12・31事業年度分の法人税確定申告書及び添付書類(二七枚)一綴(同号の3)

(法令の適用)

一  被告人和興建設株式会社

罰条 判示各事実につき

各法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項

併合罪の処理 刑法四五条前段、四八条二項

二  被告人及川俊彦

罰条 判示各事実につき

各法人税法一五九条一項

刑種の選択 各懲役刑

併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予 同法二五条一項

(量刑事情)

被告人和興建設株式会社は、土木工事、建築工事、不動産の売買・仲介等を主たる業務としているもので、被告人及川俊彦は同社代表取締役として同社の業務全般を統括する者であったが、前判示のとおり、事業資金作りのためとして、被告人和興建設株式会社の三事業年度分につき、所得において合計一億四七六六万余円を秘匿し、税額において合計金八五五六万七九〇〇円をほ脱したもので、秘匿所得、ほ脱税額は多額であるうえ、ほ脱率も、昭和六二年度分が八七・二六パーセント、同六三年度分が七一・八二パーセント、平成元年度分が九三・五八パーセントと高率であり、またその手段、方法は、下請会社代表者に依頼して架空の領収書を発行させ、あるいは買い取ったいわゆる休眠中の会社の社印等を使用して虚偽の契約書を作成するなど、複数の会社名義を使用して契約書、領収書等の取引関係書類を備えて、土地売上原価(宅地販売)、完成工事原価(建売住宅)及び造成工事原価(造成工事請負)に係る架空の外注工事を計上したりして利益の圧縮を図り、また他社から合計一億三〇〇〇万円を借り入れたように仮装し、右架空の借入金に対する架空の支払い利息を計上して各事業年度分の利益を圧縮し、割引債等を購入し隠匿保管していたものであり、その犯行の態様は、巧妙かつ計画的にして悪質であって、その刑事責任は重いというべく、とりわけ被告人及川俊彦は、被告人和興建設株式会社の脱税を自ら企図して敢行したもので、本件脱税に関与した刑責は重いといわざるを得ない。

しかし、当然のこととはいえ、本件発覚後においては、右脱税額に見合う各修正申告をなして、これに伴う附帯税を含め、これらを完納していること、各修正申告に伴う地方税の納付においても、各事業年度分の事業税、県・都民税は完納し、市民税は継続して分割納付しているものと窺われること、被告人及川俊彦も犯行を反省していること等の事情も存するので、その余の諸事情をも総合斟酌して主文掲記のとおり、被告人和興建設株式会社については罰金刑に処し、被告人及川俊彦については懲役刑に処するとともに特にその刑の執行を猶予するのが相当と認める。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 井野場明子)

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